リマスターだとかリミックスだとかデラックスだとか、手を替え品を替えといった具合に夥しい数のリイシューが湯水のごとく、雨後の筍のように湧いてきます。
今日も明日も明後日も、出す方が賢いのか、それとも買う方が阿呆なのか。
どっちもどっちと言えなくもないですが。
期待に胸を膨らませて聴いてはみるものの、「ふ〜ん・・・こんなものかぁ・・・」と、結局はだいたいが拍子抜けなわけです。
ところで、このあたり、音楽ライターさんたちのレビューに目を通してみると、なんとも「うまいナぁ〜」と思うのです。
当たり障りのないフレーズで、お茶を濁してるわけです。
たとえば「その仕事ぶりを評価したい」とか。
つまり、なんとなく聞こえはいいのですが、コレって結局は「結果」(=作品の真価)に評価が及んでいない(評価することを避けている。お茶を濁している)わけです。
そうでないとすれば、「オマエ、練習がんばったから、全然打てないけど、ベンチにいれてやるからな!」と中学生の部活動みたいなこと言っているわけです。
閑話休題。
さて、ザ・バンドの3枚目のアルバム、Stage Frightが発売50周年ということで記念盤がリリースされました。
とはいえ、オリジナルリリースは1970年なので一年遅れということになりますが、それはコロナ禍に因るところでしょう。
今回も前2作のデラックスエディションと同様、音の方はボブ・クリアマウンテン氏によるリミックス。
旧作をリミックスしてしまうというだけでもかなり大きな決断だと思うのですが、今回はさらに大鉈が振られています。
曲順が変更されているのです。
舞台恐怖症
ところで、ザ・バンドのStage Fright、前2作に対する世間の評価と比べるとその存在は地味。
とはいえ、逸話には事欠かないアルバムです。
当初の計画ではライブ・アルバム仕立てにする予定だったとか。
しかし、ライブの予定地だったウッドストックの近隣住民からの反対で頓挫。
んじゃ、ということで、押さえていた会場を使ってレコーディングを行った・・・云々。
さらには、エンジニアが当時ウッドストックを根城にしていたトッド・ラングレン。
ザ・バンドとトッド・ラングレン・・・。
まったく話が噛み合わなそうな組み合わせですが、案の定、特にリヴォン・ヘルムとソリが合わなかったらしく、アルバムの仕上げはロビー・ロバートソンが推すトッド・ラングレンと、それはイヤだとリヴォンが推す、これまた当時イケイケのエンジニアでありプロデューサーであったグリン・ジョーンズの、なんと、言ってみればコンペ!。
さてこの手のゴタゴタは、曲順にまで及んでいます。
すなわち、他のメンバーの筆による楽曲が少ない中、ロビー・ロバートソンの楽曲が偏らないように、メンバーの個性が際立つようにと配慮された苦肉の策の結果が、オリジナル版の曲順ということらしいのです。
なるほど、確かにオリジナル版を聴くと、アルバムの流れとしては、なんとなくぎこちないというかぎくしゃくしているというか、そういった印象を受けるアルバムでした。
どちらかというとネガティブなエピソードが目白押しなところを見ても、徐々に顕在化されつつたったバンド内の揉め事が、作品にも投影されているということでしょうか。
曲の内容も全2作とは趣が異なり、全体的にナイーヴな内容となっています。
目玉は曲順の変更
今回のリイシューの目玉と言える曲順の変更。
つまり、もともと意図していた並びにした、ということらしいです。
なんてことするんだ!オリジナル版に対する冒涜以外のナニモノでもないじゃないか!
と、気も狂わんばかりに反論したいところなのですが。
ところがこの曲順、思いの外良くて、別の意味で拍子抜けでした。
そもそもオリジナル版、曲もジャケットもとっても好きなのですが、先ほども触れたように「ぎくしゃく」してるんですよね。
このぎくしゃく、いったいなんだろう?
と、聴くたびに頭のどこかで疑問符がちらついていたのです。
なんでかなぁ〜と考えるために聴く、といった屈折した楽しみ方をする作品とも言えなくもない。
しかし、今回の曲順、スーっとなんの違和感もなく入ってきました。
聴く前は「どうなんだろうねぇ〜・・・」だったわけですが。
「スーっ」のもう一つの要因はサウンドでしょう。
先にも触れた通り、オリジナル版のマスタリングはエンジニアはふたりによるコンペ。
最終的には二人の仕上げによる楽曲が混在しているようで、実際曲によって音の質感が異なる印象をずーっと持っていました。
これも「ぎくしゃく」感の原因だったと思うのですが、今回のリミックスで音が統一されている分、サウンド面のぎくしゃく感は取り除かれ、風通しがよくなったのだろうと思います。
とはいえ、リミックス自体は、どうなんだろうねぇ・・・という印象の仕上がり。
ザ・バンドが奏でていた本来の音(サウンド)とはだいぶかけ離れてしまったと感じるのですが。
結局ぎくしゃくしてるStage Fright
ボーナストラックは2曲の別テイク(リミックス)とジャムセッションによる音源、そしてロイヤルアルバートホールでのライブ。
ジャムセッションの方はツアー(フェスティヴァル・エクスプレス・ツアー)中のホテルで録られたもので、雰囲気は伝わってくるし、貴重なのも理解できますが、「Stage Fright」というアルバムの文脈で聞いてしまうと、正直少々物足りない。
できれば、アルバムの制作過程を垣間見られるようなテイク集が聴きたかったところ(ナゼそれができないのか)。
ライブも同様、そもそも今回の企画に入れる必要があったのか、単独リリースでもよかったのでは?と、どうも煮え切らない。
そして、ジャケット・・・。
なぜこうなってしまうのか。
結局、50年を超えてもぎくしゃくしているStage Frightというわけなのです。
(オリジナルジャケット)