「おれは酒飲みを信用する。酒飲みには飲まなきゃならないワケがある。だって飲まなきゃやってらんないだろ」
ある晩某飲み屋のマスターの口をついて出たこの言葉、以来私の金言となっています。
そう、飲まなきゃならないワケがある。
私がこよなく愛するトミー・ジョンソンというブルースマンも、ワケあってアル中になったのでしょう。
ミシシッピ州ジャクソンを根城に歌っていたトミー・ジョンソン。
Canned Heat BluesやBig Road Bluesの名前を聞いてハハァ〜ンと頷ける人はすでにブルース中毒といったところでしょうか。
知る人ぞ知るブルースマン、残された録音は17曲19テイクのみ。後年に与えた影響力を考えるとあまりに少ない。
その少ない理由というのも、一説によればレコード会社との契約で齟齬をきたしたためとか。
そしてその齟齬というのもアルコールが祟ってのことらしい。
そんなエピソードもCanned Heat Bluesを聴けば納得、何せ調理用のアルコール飲んで喉が焼けそうだなんてキョーレツなことを歌っています。
筋金入りなのです。
>ドキュメントレコードの定番。「Tommy Johnson 1928 – 1929」
とはいえ・・・
彼のギターや歌声を聞く限り、ヨッパライなんて想像に及ばないどころか、言われてもなかなか納得できません。
残されたたった一枚のポートレートを見ても、そこには優しく微笑むジェントリーな青年がいるだけです。
もっとも歌の内容はアレですから、英語がわかる人にはただのヨッパなのかもしれませんが・・・。
ゆったりしたタメのあるギターを背景に、ヨーデルを想い起すようなビブラートとファルセットで朗々と歌い上げるトミー・ジョンソン。
そもそもヨッパらってフラフラだからこんな歌い方になったのか。
Cool Drink of Water Bluesあたりになると聞き様によってはかなりの酩酊状態、というかラリラリ、聞き様によってはサイケです。
しかし、このゆったりとした、ポートレートから受ける印象と同じ優しげで時に物憂げなブルースヨーデルが私には愛おしいのです。
この大らかな歌声の背後には、飲まなきゃやってられないワケがあったのでしょう。
はたしてそのワケとはなんなのか。
ナゼ人は飲んじゃうのか。
確かにやってらんないんだけど、ナニがやってられないのか。
トミー・ジョンソンを聴くたびに、酒飲みの、いや、人間の憂いを思うのです。
さて、トミー・ジョンソンの録音は(現在のところ)以下の19テイクを聴くことができます。
Cool Drink of Water Blues
Big Road Blues
Bye-Bye Blues
Maggie Campbell Blues
Canned Heat Blues
Lonesome Home Blues (take 1)
Lonesome Home Blues (take 2)
Louisiana Blues” (unissued test)
Big Fat Mama Blues
I Wonder to Myself
Slidin’ Delta
Lonesome Home Blues
Untitled song, take 1 (“Morning Prayer Blues”)
Untitled song, take 2 (“Boogaloosa Woman”)
Black Mare Blues (take 1)
Black Mare Blues (take 2)
Ridin’ Horse
Alcohol and Jake Blues
I Want Someone to Love Me
(続きはそのうち)